
はからずも今回登場していただいた5人は、みんな現役ストレートで合格ということではなく、各人各様の紆余曲折を経て音大受験に成功した人たちだった。そんな彼らだからこそ、それぞれに目標に到達するための学びのノウハウを持っているはず――。司会者の思わくどおり、座談会ではさまざまな勉強法を聞くことができた。しかし、多彩な勉強方法の背景には、「目標を達成するために何をするべきかを意識する」という共通項が存在した。
司会 音大に入るための勉強方法について教えてください。何かコツのようなものがあるのでしょうか。
有田 実技はともかく、筆記試験対策はとにかく詰め込み。僕はそう割り切って考えました。とくに楽典は暗記あるのみ。覚え方って人それぞれあるでしょう。関連づけて覚えていくのがいいとか、語呂合わせで覚えるとか。どんなやり方でもいいから、自分が覚えやすい方法で頭に入れていけばいいと思います。
司会 聴音なんかはどうなんですか。
有田 たしかに聴音はやはり感覚的なところも大きいかもしれません。でも、音大を目指そうという人なら、間違いなく音楽が好きなはず。とくに意識していなくても、子供の頃から音楽を聴いていれば、自然にしみついているものがあると思います。楽典の勉強で詰め込んでいく知識と、音に対する感覚をうまく結びつけていくということだと思います。
司会 目標を決めたら、それに向かってひたすら突き進む。要は割り切りも大切ということですね。
有田 おっしゃるとおり! 自分を信じて、やるしかないんです。
司会 でも、それでもやっぱり聴音が苦手という人もいますよね。感覚的な部分が大きいからこそ、何かコツのようなものはないのでしょうか。
――聴音のテストでできなかったところを書いてみる、歌ってみるって方法もあるよね[日原]
有田 たしかに……。楽典で頭に入れた知識が聴音やソルフェージュのヒントになるということはあるでしょうね。だからこそ、楽典の勉強が大切なんです。
司会 なるほど。実は楽典も聴音も実技も、深いところで関連があると。増岡さんはどうですか。
増岡 現役で受験に失敗してOSSに出会って、驚いたことのひとつが楽典の勉強方法。とにかく独特なんです。うまく言葉にできないのですけど、何というか、ひとつひとつを確実にたたき込んでいくというか……。
司会 でも、増岡さんはずっと音楽をやってきたから、もともと筆記試験対策もバッチリだったのでは。
増岡 たしかに、小さい頃からピアノを始め、本格的な受験勉強も高校2年生くらいから。もともと、楽典も聴音も苦手意識は持っていませんでした。でも、違ったんです。それまでは何となく頭に入っているだけだったものが、絶対に忘れられないくらいになっていくんです。
司会 筆記試験に絶対的な自信がついた。
増岡 こういう部分で損をしちゃいけないんだと、OSSに入ってから実感しました。有田さんの言う「たたき込み」とも共通するのですが、私たちがラッキーだったのは、OSSがホームページ上に楽典の練習問題を掲載するようになったこと。
――あ、それ俺が言おうと思ってたネタ[日原]
増岡 ゴメンね。で、ネット上にアップする前に、問題と答に間違いがないか、日原君たちといっしょにチェックさせてもらってたんです。よく、人に教えると覚えるって言いますよね。それと同じで、この経験は自信につながりました。
司会 OSSがいかに家庭的かを物語るエピソードというか……
増岡 もう一つためになるのが、音大ごとの試験の傾向を教えてくれること。これはありがたかったですね。傾向が頭に入っているだけで、試験の際に心に余裕ができます。ちゃんと点数が取れる率はかなり違ってくると思うんです。
司会 長谷川さんはどうですか。受験勉強で大切なこととか、勉強のコツとか。
長谷川 とにかく聴音。これが大切。でも、自分の進んだ国立音大では試験科目に聴音は入ってないんです。
――おいおい(全員ブーイング)
長谷川 でも、入学した後は聴音ができないと辛い。考えてみれば当たり前のことで、試験科目かどうかいうことよりなにより、音楽を続けていくために必要な力であることは間違いないですから。そういう意味で、知らず知らずのうちに、聴音も含め将来のための基盤になる力をたたき込んでもらえる(笑)ってことが、結果としてはありがたいことだと。
司会 またまた先生からのメモですが、こんなことが書かれてます。「心配があるとすれば実技のみ、というところまでもっていきたい。仮に苦手だとしても、せめて足を引っ張らないくらいまで、できればプラスになるくらい。筆記試験については、そのように考えています」とのことです。
長谷川 なるほど。では自分もここでPRをひとつ。これ、実技に関することなんですが、絶対いいと思うんです。
司会 それって何ですか。
長谷川 度胸試しコンサート。
――うん、あれはいい[日原]
――今でも出たいと思うもの[増岡]
司会 度胸試し、ですか。
長谷川 はい、受験の前に課題曲を審査員(教室の先生)の前で演奏するっていうコンサートです。受験番号とかも言って、けっこうリアルにやるんです。課題曲を人前で演奏するなんてまずありませんから、自信になります。しかも、審査員がしっかり講評を書いてくれる……。といっても自分の場合5曲くらい演奏したんですが、5曲分カッコでくくって一言、だったんですけどね。
――私はけっこういろいろコメントしてもらったような気がする[増岡]
長谷川 でしょう? なのにオレはカッコでびゅーっとくくって……。
司会 きっと長谷川さんについては、実技は問題ないという評価だったんですよ。
司会 沢谷さんお待たせしました。1ヶ月弱という超短期決戦を勝ち抜かれたんですから、きっと思いもよらないようなノウハウをお持ちなのでは。
沢谷 それが、あまりに短い期間だったので何がなにやら……。
司会 楽典や聴音と実技を同時進行で勉強されたんですよね。
沢谷 大変だったのは実技の方でしたね。
司会 なるほど。先生からのメモにも、「沢谷さんは耳がよくて、のみ込みも早い。だから受験直前だったが受け入れた」とあります。実技についてはスランプでもあったのですか。
沢谷 スランプというか……。さっきも話したように、最初の2週間はダメダメだったんです。何をやってもうまくいかない。どう歌ってもダメ。時間だけが過ぎていく。そんな感じで焦っていたんです。
司会 うまくいかない時に頑張る秘訣ってあるんですか。
沢谷 僕はほめられると伸びるタイプなんです。でも、レッスンを始めて2週間は誰もほめてくれない。だから落ち込んでいく。
――それは辛い[長谷川]
沢谷 でも、とにかく音楽が好きだったから。歌をやりたいという思いが強かったから、めげずに頑張れたんだと思います。
――そう、歌が好きという気持ちが一番[日原]
司会 何かきっかけになったできごとがあったんですか?
沢谷 先生がほめてくれたこと、かな。
――それは嬉しい[長谷川](笑)
沢谷 ほめられたのは、きっとその時、自分の中で何かが変わったんだと思うんです。それまでも、アドバイスされたように歌っているつもりだったんですが、「つもり」でしかなかった。それが3週間目が過ぎた頃、うまく歯車が噛み合わさった、という感じでした。それからはレッスンも面白くなって。
司会 きっと、悩み続けた2週間の試行錯誤が貴重だったんですね。
沢谷 それとやはり、うまくできた時にほめられたことです。「つかめた」と思えましたから。
司会 メモにこんなことも書かれています。「せめて願書を出す前に」。これはどういう意味ですか。
沢谷 (笑)それは、OSSに来る前に、自分で受験の願書を出してしまっていたということですね。調とか高さとか考えずに、自分が好きな曲ということで実技での曲を選択してしまっていたので苦労したんです。
司会 いかに短期決戦であっても、せめて曲決め前には来てほしいという意味ですか。
――すごい「せめて」
司会 日原さんは受験のためにどんな勉強をされたのですか。
日原 のどをこわした1年目はとにかく、2年目は絶対に入るんだという気持ちを持ち続けていました。楽典と聴音が弱いということはわかっていましたから、これは徹底してやる。どうやって勉強したかというと、そりゃもうコールユーブンゲンとか聴きまくりました。進路が決まらずにいた高校時代からは想像もつかないのですが、朝から晩まで、それこそ食事中もウォークマンで聴き続ける。さらに、弾いて、歌ってみて、音のとび方とかを学びとる。聴音のテストを受けても、経験が乏しいからたくさん間違えるわけです。答え合わせをしたあと、家でも歌う。一度やったことを何度もくり返していくうちに、見えてくるものが必ずあるんです。たとえば試験に出るパターンとかもなんとなく見えてくる。譜読みも確実に速くなる。だから、空いた時間があるならひたすら聴音、ソルフェージュ。長谷川君も言っていたけど、入学後にもしっかりつながっていく力になると思います。
司会 浪人したことのメリット、ということ言葉は変ですが、浪人したからこそやれたことというのはありますか。
日原 それはとにかくひたすら音楽の勉強に打ち込んだということですよ。それと、浪人したことで自分の将来を考える真剣さが違ってきたと思います。音大に入りさえすればいいというのではなく、その先を意識するようになりましたね。だから、外国語も英語ではなくイタリア語で受験しようと、一から勉強しました。楽典も聴音もイタリア語も、この時期に集中して学んだことは、今の自分につながっていると思います。
司会 日原さんの場合は、スランプなんて言葉は無関係に思えますが。
日原 それでも、夏頃にはどうしようもなくへこんでしまったことがありました。何をやってもうまくいかない。でも、立ち直ることができたのは、歌が好きだということ。将来も歌をやっていきたいという目標があったことだと思います。
目標を達成するための近道はない。やるべきことをしっかりやっていくことが何よりも大切。しかし、問題は目標を達成するために「今、何をしなければならないか」を知ることだということがよくわかりました。次回は、音大に進んだ現在、どんな将来を思い描いているかというテーマで5人のインタビューをお送りします。
※次回は8月初旬に掲載いたします。
ページの先頭へ [U]